知っておトクな会社設立(登記簿謄本編)
今回は、会社設立で必ず作成する「登記簿謄本」について、記載されている事項を取り上げ、事前に知っておくとお得になる情報をご紹介します。
※今回のコラムは株式会社を前提としています。
まず、株式会社において必ず登記しなければならない事項は下記のとおりです。
- 商号
- 本店及び支店の所在場所
- 目的
- 資本金の額
- 発行可能株式総数
- 発行済株式の総数並びにその種類及び数
- 取締役の氏名
- 代表取締役の氏名及び住所
- 公告方法についての定め(例:官報で公告する旨)
この中から、いくつかご紹介していきます。
1.「商号」 会社の名前について
① 商号(会社名)のルール
(例) ●●株式会社 や 株式会社●●
●●の部分は自由に決定できます。その前か後に「株式会社」という会社の種類が入ります。株式会社であれば、「株式会社」は必ず商号に含まれる必要があります。
② 著名会社に似た「商号」には要注意
会社法には、不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある商号を使用してはならないと定めています。「商号」をつける上では、有名企業の名前やそれに似た名前を使うことは控えた方がいいでしょう。
③ ドメイン取得も視野に会社名を考えてみる
今の時代、会社設立に合わせてホームページを作成することが多いと思います。
ホームページを作成するにあたり、ドメインと呼ばれるネット上の住所を取得する必要があります。検討している会社名で、希望のドメインを取得できるか事前にチェックしておきましょう。
2.「本店」会社の住所について
① 住所のルール
自宅を「本店」とすることも可能です。記載で必須なのは、「都道府県+市町村名+●丁目●番●号」までです。借りる物件がマンションやビルの場合、部屋番号を住所に含めるかどうかは自由です。
② 同じ住所に同じ商号の会社はNG
商業登記法では、同じ所在場所に同じ商号の会社を設置することはできません。
③ 銀行口座の開設、金融機関の融資に影響を及ぼすときがある
会社の住所を登記可能なバーチャルオフィス、シェアオフィスとすることが近年増えています。登記上は問題ないのですが、銀行口座の開設や、融資を受けるときに影響を及ぼす場合があります。
例えば、パソコンがあればどこでも仕事ができるような職種で、オフィスはあるが、どこが主な拠点になっているかの把握が難しく、所在地をつかみにくいような場合です。
このような場合、金融機関の立場からすると、金融機関の管轄がはっきりしない、事業の実体が見えにくいなどの点から口座開設や融資に慎重になる場合があります。
3.「会社設立年月日」
① 設立日は平日のみ
会社設立日は、会社の本店所在地を管轄する法務局に対して、設立の登記申請をした日になります。法務局は土日祝が休みなので、土日祝を設立日とすることはできません。
② 会社設立日の決める際のポイント
会社設立日は平日であれば自由に決めることができます。大安の日や記念日を設立日とすることはもちろん可能です。
③ 事業年度と決算日
事業年度は、登記簿謄本には記載されません。「会社の設立日~定款で定めた決算日」までの期間が、設立第1期目の事業年度となります。決算日は税金計算に影響を及ぼす大事な日です。
会社の経理業務への負担や税金に影響がありますので、決算日については慎重に検討しましょう。
4.資本金の額
① 資本金の金額は自由
会社法ができる前は、最低資本金の要件がありました。(株式会社の場合は1,000万円以上)その後、平成18年5月に施行された会社法により資本金の要件は撤廃されました。つまり、資本金1円でも会社設立が可能となりました。
② 資本金の目安
資本金1円でも会社を設立できるといっても、1円では会社運営ができません。現実的には会社運営に問題がない資本金額を設定することになります。
では、どのくらいがいいのでしょうか。目安を考えてみました。
イ.消費税法の観点から1,000万円未満にする
消費税法では資本金が1,000万円未満であれば、原則として、消費税が最大2年間免税になります。(一定の例外規定がありますので、どんな会社でも2年間免税とは限りません)
ロ.取引先への信用力や銀行融資を念頭に置く
取引先から見ると、資本金1円の会社は心配で、取引に影響があるかもしれません。また、金融機関から融資を受けられる金額の目安は、自己資金(資本金)の2倍程度と考えられています。融資を受けたい金額を目安にして、資本金を決めるのも一つでしょう。
ハ.すぐに債務超過になる金額は避ける。
金融機関は債務超過を必ずチェックしており、債務超過の会社にはお金を貸したがりません。少なすぎる資本金で始めてしまうと、すぐに債務超過になってしまい、いざ銀行融資を受けたい時に評価が低くなり、融資を断られる恐れがあります。目安として覚えておくといいでしょう。
5.目的
目的とは、会社で行う事業内容をいいます。
① 目的の変更には費用がかかる
会社は、定款に書かれた目的以外の事業を行ってはいけません。書かれていない目的を追加したり、変更したりする場合は、法務局に費用を払い、登記事項の変更をする必要があります。
会社設立時に目的を決める際には、将来計画している事業についても網羅しておくことをオススメします。
② 目的が銀行融資に影響する場合
上記において将来計画しているものを網羅することをオススメしました。登記上は幅広く記載が可能なのですが、銀行融資においては、現に行っている業種とあまりに関係ない目的があると良い印象を持たれない恐れがあります。
また、融資を受けるうえで、対象外業種というものがあります。例えば「金融業」です。実際に行っていなくても、記載があるだけで融資が受けられなくなりますので、注意しましょう。
③ 許認可を受ける予定があれば目的以外にも注意する。
許認可を必要とする事業をされる場合には、その事業内容を忘れずに目的に盛り込んでください。記載を忘れた場合には、法務局に費用を支払って、目的の変更を行わなければなりません。
事前に、官公庁の窓口などで目的記載内容、資本金などその他の要件を確認しておくのがよいでしょう。
6.役員に関する事項
① 役員は1人でも可能
会社法では、株式譲渡制限会社であれば、取締役1人でも株式会社を設立することができます。
※株式譲渡制限会社とは、定款上ですべての株式の譲渡について、株主総会などの承認を要する旨を定めている会社のことをいいます。登記簿謄本にもその旨の記載がされます。
② 役員には任期がある。
会社法上、株式会社の役員には任期があります。原則、取締役2年、監査役4年です。「株式譲渡制限会社」であれば、最長10年まで延ばすことができます。
役員は、任期が満了する度に登記をする必要があり、費用がかかります。同じ人が役員を継続する前提の会社であれば、任期を長くしただけ経費削減になります。取締役が代表者と代表者の家族のみの会社は任期を10年まで延ばしていることが多いです。
逆に、身内でない第三者を取締役に就任させる場合などは、万が一のトラブルに備えた上で任期を決めることをオススメします。
7.会社設立前にご相談ください。
今回は、登記簿謄本に記載されている事項ごとに、知っているとお得な情報をご紹介しました。事前に将来を見据えたアドバイスを受けることで、起業後の事業も円滑に進むことでしょう。
弊社では会社設立の流れはもちろん、会社形態の選択、節税、融資など、会社設立前に検討しておきたい事項について、わかりやすくご説明いたします。また、必要に応じて他の士業(司法書士など)のご紹介も可能です。何でもお気軽にご相談ください。
※関連法令
会社法2五(定義)
会社法4(住所)
会社法6(商号)
会社法8①(会社と誤認させる名称等の使用の禁止)
会社法27三(定款の記載又は記録事項)
→定款は「本店所在地」を記載 ※所在場所の最小行政区画までのことを指す。
会社法49(株式会社の成立)
会社法107(株式の内容についての特別の定め)
会社法108(異なる種類の株式)
会社法326①(株主総会以外の機関の設置)
会社法327①(取締役会等の設置義務等)
会社法331⑤(取締役の資格等)
会社法332①②(取締役の任期)
会社法336①②(監査役の任期)
会社法911③(株式会社の設立の登記)
会社法911③三 →登記は「本店の所在場所」を記載する必要あり
会社法915①(変更の登記)
商業登記法27(同一の所在場所における同一の商号の登記の禁止)
民法34(法人の能力)
法人税法13①(事業年度の意義)
消費税法12の2①(新設法人の納税義務の免除の特例)
2005年改正前商法168ノ4